2021年3月19日に日本でレビュー済みこの本は、大崎事件という鹿児島県の刑事再審事件を巡り、著者が数十年にわたり奮闘してきた半生記である。被告人とされ満期まで服役したのは原口アヤ子さんであるが(最高裁判所の公式HPでさえ実名で掲載されているので、仮名にしない)、弁護団事務局長の著者の視点から書かれている。しかし、その内容は、基本的に歴史的事実に沿ったものである。
700頁の大著なので、とっつきにくいかもしれないが、手にとっていただき、読みやすいところから読んでいただきたい。ある1つの事件の話ではあるが、日本の刑事司法制度に極めて大きな問題があり、そのような時代に私たちが生きているということがわかっていただけると思う。
笑いあり、涙ありでは、表現し尽せない。著者の絶望とそこからの再生の物語である。そして、この絶望は、著者だけでなく、日本国民全員が共有しなければならないものである。日本の裁判所は、上に行くほと悪くなると言われることがある、また裁判官の当たり外れがあると言われることもある。多くの弁護士は、ことさらこのようなことを口にしないが、それはあまりにも当たり前のこととして共有されているからなのである。第3次再審請求で、鹿児島地裁、福岡高裁(宮崎支部)は、法理論・事実認定の面で正しい結論を導いた。こうなると、最高裁判所は、事実の取調べができないから、誰もが原口アヤ子さんの再審開始は維持され、あとはそれがいつ出されるかだけが焦点となる。ところが、最高裁判所第1小法廷の5人の裁判官は、到底説得的といえないような理由で(記録を十分に検討したとは到底思えない)再審開始を取り消した上、本来足りないところを指摘して高裁に差し戻せば済むところをあえて棄却して「強制終了」させる暴挙に出た。そこまでして、過去に最高裁判所で確定した有罪判決を守りたかったのか。人間として恥ずかしいことである。
著者は、弁護士人生の過半を原口さんの救済に賭けてきた。最高裁の小池決定後、事務所は多額の赤字を出して閉所、事務所の事務長を務めていた夫の末期がん発覚、実母の転倒事故と入院に見舞われる。
そこから、どのようにして再起への道を探っていったのか。是非ご自分の目でお読みいただきたい。
間違いを認めず、ごまかし、解決を先延ばしにする者らが道は阻んだとしても、真実は強い。冤罪は必ず明らかになるであろう。しかし、そこまでの道のりのなんと険しく、遠いことか。是非著者の思いの上下を追体験していただきたい。
日本の刑事再審制度は、欧米はおろか、近隣の韓国、台湾にさえ大きく劣る内容となっている。冤罪被害救済という点に後ろ向きどころか、徹底的に組織的抵抗を行う検察庁・警察、捜査公判に問題はないと強弁して改革に取り組もうとしない法務省、そしてそれをサポートする最高裁判所という構図である。再審の開始決定を得たとしても、最高裁判所までの3審制で勝ち切らなければならない上、1つ1つの審理が文字通り致命的に時間がかかる。特に、検察庁は、公益の代表者として冤罪被害者急性にむしろ積極的に協力しなければならないのに(検察庁法)、庁益の代表者として先輩検事が有罪とした確定判決を墨守し、解決を先延ばしすることに汲汲としているのが現状である。個々の検察官には人柄のいい人物が多いが、組織としては腐っていると言わざるを得ない。このような検察官に、再審開始決定に対する抗告権を認めるのは即刻やめるべきである。ドイツでは、60年代に検察官の抗告権を廃止している。
管理人がアマゾンレビューしました『大崎事件と私』

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