弘中惇一郎『生涯弁護人 事件ファイル1・2』

再審文献リスト

前著『無罪請負人』においても、いかに依頼者=被告人を救済するかに懊悩しつつ、足と頭で戦略を練る刑事弁護人の姿にうなる、著者弘中弁護士さんの最新刊です。

1と2に分かれており、ページ数も相当あるので、購入するか迷ったのですが、結論から言うと、十分価値があったと思います。とにかく、面白い。何と言っても、リアルタイムで攻略を考え、ときには裏目に出たり、失敗したりする。また、元依頼主の方との後日談なども率直に披歴されており、著者の飾らない人間性に好感が持てます。

また、本書の特徴として、法律家でなくても読みやすい平易な文章であることもさながら、検察官、裁判官について徹底した実名主義を貫いています(ふりがなまで振ってあります)。ここまで徹底した本はなかなかないのではないでしょうか。(裁判官を実名にしている本はありますが、検察官も実名にしている本はあまり見かけたことがないのです)

まず、ファイル1、2とも、4人の元依頼主の方が表紙を飾ります。1では、郵政冤罪事件の村木厚子さんのところと、国策捜査の鈴木宗男さんのところは、特に夢中になって読みました。

村木さんの事件は、あとから見れば明らかに検察がフレームアップ(無関係の村木さんを巻き込んだ)した事件です。逮捕された村木さんをチームを組んでメンタル的にも支えていきます。村木さん自身もしっかりとした精神力の強い方として書かれているのですが、それでも、検察官の横暴な取調べの前に、何度もくじけそうになります。国家権力と対峙したとき、身柄を拘束された被疑者、被告人の立場というのが、いかに心細いものか。検察官は、平気でうそをつくし、この事件では、証拠のフロッピーディスクを捏造までしてしまったのは、有名な話です。しかし、最近の、プレサンスコーポレーション事件等を見ていると、検察の体質はまったく変わっていない、改善されていないように感じ、恐怖感を覚えてしまいます。

1審で無罪が確定して良かった。しかし、それでもこれだけ長期の身柄拘束に耐えなければならなかったわけで、本当に検察の罪深さに戦慄します。

次に、鈴木宗男代議士の事件ですが、まさしく国策捜査。国民の喝さいをあび、信頼をつなぎとめるため、検察は暴走します。根も葉もないあっせん収賄罪をでっちあげてしまいます。

この対向犯的な贈収賄や公選法違反の供与罪というのは、供述が決め手となるため、特捜検察にとっては非常にやりやすい事件の類型です。最近でも、明らかに冤罪と思われる美濃加茂市長収賄事件(名古屋高裁に再審請求中のようです。もちろん一審名古屋地裁判決は無罪でした)、天龍高校贈収賄事件(収賄側 最高裁に係属中、贈賄側 浜松簡裁に係属中)があります。鈴木宗男氏は確かに、古いタイプの政治家で、その人間性はわかりません。しかし、証拠から考えたら、このやまりん事件はおかしいですよね。有罪が確定してしまったので、弘中弁護士は、再審請求をしました。これが、東京地裁で棄却。

本書では、再審請求について、このように触れられています。

「険しい再審開始への道

2012年11月29日、私たちは東京地裁に再審請求の手続をおこなった。特捜事件としては初の再審請求であった。(中略)

 しかし、これだけの新証拠が出てきても、東京地裁の家令和典裁判長は再審請求を認めてくれなかった。2019年3月、私たちは東京高裁へ即時抗告した。東京地裁の決定が出るまでには6年半近くかかっている。なぜこんなに時間がかかるのかというと、再審事件は通常事件としてカウントされないからだ。再審事件を担当しても裁判官の評価にはつながらないし、刑事訴訟法で手続が規定されているわけではないので、裁判所も不熱心だ。極端なことを言えば、放っておいてもいいわけである。東京高裁の判断がいつ出るのかは、まったくわからない。しかも、高裁になると「地裁の決定がきわめておかしいかどうか」という基準で再審開始の適否が判断されるので、よけい厳しくなる。

 現状の再審制度も問題点を鋭く、しかしわかりやすく論述されていますね。さすが弘中先生です。非常におすすめの本です。ファイル2は、痴漢えん罪事件(1件は、非常に戦略を立てて苦労して弁護したのに、有罪が確定してしまっています。)とカルロスゴーンの話が非常に面白く読めました。日本の司法制度に絶望する気持ちになりますが、明るい未来は待っているのでしょうか。是非お読みください。

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ファイル1


生涯弁護人 事件ファイル1 村木厚子 小澤一郎 鈴木宗男 三浦和義・・・・・・ [ 弘中 惇一郎 ]

ファイル2


生涯弁護人 事件ファイル2 安部英(薬害エイズ) カルロス・ゴーン 野村沙知代・・・・・・ [ 弘中 惇一郎 ]

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