最初に若干お詫びすることがあります。2021年9月初旬に「日野町事件即時抗告審は本当に盤石か」という記事を書きましたが、この事件の即時抗告審の進捗状況があまりにも報道などにはリリースされていなかったため、正確に状況がわかっていませんでした。
つまり、このような記事を書いていました。以下引用
「即時抗告審で、日野町事件の弁護団は3年余りも時間を与えられてきた。以下は、公刊されている決定書(判例時報等)、文献からの個人的見解である。
その間、まず最も優先度が高かったのは、C3(判例時報上の仮名)の供述心理鑑定</span>であったのではないだろうかと思う。それも、かつて、一度も裁判所に新証拠と認められたことのないH教授の供述心理鑑定ではなく、最高裁R1.6.25第一小法廷決定(小池裕裁判長)・裁判集刑事326号1頁が証明力を認めているスキーマアプローチの手法により、阪原さんのアリバイを確固たるものにすることだったのではないか(大津地裁決定では、アリバイが虚偽ではなかった可能性、まで行ったに過ぎないと理解している)。確定判決では、アリバイ主張が虚偽とまで言われているが、私は、里見繁教授がいうとおりで、「消えたアリバイ」は真のアリバイだったと思っている。もし、新証拠で、これを確固たるものにすれば無罪しかないのではないだろうか?
(中略)素人考えなので、間違っているかもしれないが・・・」
その後、日本弁護士連合会の日野町事件集会を視聴して、なるほど、弁護団がこの関係で既に新証拠を提出していることを始めて知りました。
ほかにも、前回はこのようにブログを書き綴っています。以下引用
「注意すべきなのは、第1次の大津地裁決定(木谷明『刑事事実認定の理想と現実』法律文化社(2009)19頁で評釈あり)の筋であれば、簡単に請求棄却決定を書くことができることである。この決定を書いた長井秀典裁判長だけが特異なわけではないと思われる。自白と矛盾する客観的状況を追加で指摘しても、「知的能力のせい、時間の経過のせい、核心部分ではない」、の一部又はその全部により、すべて排斥できる。また、金庫発見場所への写真の入れ替えについても、決定的に無罪を示すものではないことは残念ながら明らかで、写真の入れ替えは相当ではなかったが、案内自体は自力でできていたことに「疑いを入れない」とされてしまう可能性は十分にあるだろう。
飯塚事件の再審請求棄却方向の最高裁決定(最高裁R3.4.21第一小法廷決定、小池裕裁判長)は、三行半ではなく、わざわざ理由を書き、「新証拠の立証命題と関連しない旧証拠の証明力に関する弁護人の主張について明示的に判断していないことに誤りがないとした原決定の判断は、正当なものとして是認できる」,「犯人と事件本人のMCT118型鑑定が一致したことを除いたその余の状況事実を総合した場合であっても、事件本人が犯人であることについて合理的な疑いを超えた高度の立証がされており、新証拠はいずれも確定判決の認定に合理的な疑いを生じさせるものではないという原決定の判断は相当である」としている。しかも、この決定は、最高裁判所刑事判例集に掲載されるというから(刑集75巻4号)、調査官解説も世に出ることになる。個人的な感想にとどまるが、1点目として、飯塚事件については、絶対に再審を開始するなと言う下級審裁判官に対するメッセージであり、2点目として、開始方向の決定に対して検察官がした即時抗告審が係属している日野町事件については、第1次再審請求の大津地裁決定の筋で(自白と客観証拠との矛盾については、元被告人の記憶の減退や知的能力等により説明が可能であり、金庫発見場所への引き当てについては、写真の入れ替え自体は相当ではないものの、元被告人が自発的に案内できたという点には疑問を入れない)、原決定取消しの決定を理論的にも心理的にも書きやすくなるのではないかと心配している。
当地、かごんまから遠く離れた事件であるが、知れば知るほど、早期に、そして必ずや救済されなければいけない冤罪事件である。
そして、個別の事件の対応と併せて、法改正についても力を入れなければならないのではないか。主に、検察に特別抗告をさせないためである。少なくとも、再審法改正について一定の世論が形成され、検察が特別抗告を躊躇するような状況にするのが理想だと思うのだ。
本当に、本当に頑張って、結果を出してほしい。心から応援している。」以上、引用終わり(長くてすいません)
前記の日野町事件集会やその後の報道も(情報量は少ない)見た上で、再度整理したいと思います。
現在、日野町事件即時抗告審(第2次再審請求)は、大阪高等裁判所第3刑事部(石川恭司裁判長)の下で係属しており、検察官の方は追加の主張立証は、基本的にはない、と表明しているようです。大津地裁の開始決定からは3年半(2018.7.11判例時報2389号38頁)が経過しています。
私も素人なので、読んでみて、すごく難しいなと思うのですが、開始決定翌日の各全国紙が掲載した決定要旨を読んだときは、この決定をよく理解できました。
この決定要旨を、次回は、当時の新聞のコピーからワープロで打ち出して、掲載してみたいと思います。(今回の記事は続きます)
また、決定要旨を見る限りでもこの決定はすごい決定だと思うのですが、さきほど書いた判例時報の解説のほかは、なぜか評釈がすごく少ないんですね。なぜなんでしょうか。地裁の決定だから?賛成、反対を問わず、評釈されているのは、一応私が調査した限り、次の2つの論文のみだと思います。
・木谷明「『違法捜査と冤罪』日本評論社 2021年 157頁
以下抜粋 「本書では、最終的に無罪が確定した事件だけを扱ってきた。それは、冤罪と違法捜査の関係を明らかにするためには、冤罪であることが裁判上確定していることが望ましいと考えたからである。ところで、本件(ブログ管理人注 日野町事件のこと)については、現在再審開始決定に対する検察官の即時抗告事件が大阪高裁に係属中であり、裁判所の無罪判決が確定している訳ではない。しかし、確定1・2審判決と再審開始決定を併せ読む限り、本件は冤罪の疑いが極めて強いと思われる。また、違法捜査が行われたこと自体も明らかである。そこで、異例ではあるが、この事件を加えることとした。」「再審開始決定は、新旧証拠を総合すれば、取調官に暴行・脅迫を受けたとするSさんの供述は裏付けられているとした。そして、Sさんの自白の根幹部分が信用できるとした控訴審判決の認定にも異論を唱え、自白の任意性を肯定した確定判決等の判断は大きく動揺しているとしたのである。まことに説得的である。」
・松宮孝明「ノヴァ型再審における総合評価 大崎事件第三次再審請求特別抗告審決定を契機として」石田倫識=伊藤睦=斎藤司ほか編『刑事法学と刑事弁護の協働と展望』日本評論社 2021年 76頁
以下抜粋 「旧証拠の再評価を新証拠抜きで行うと、確定力の尊重を害する虞がある。したがって、日野町事件第2次再審請求開始決定(大津地決平成30・7・11判時2389号38頁)等の近年の再審開始決定は、旧証拠の証明力の独自評価を新旧証拠の総合判断の段階で行っている。」「近年の再審開始決定の中では、前述の日野町事件第2次再審請求開始決定が、このような意味で証拠構造分析を行っており、旧証拠の証明力の独自評価は、新旧証拠の総合判断で行われている。」
このほかでは、弁護団という一方当事者の立場から、あるいは、阪原さんのお子さんたちの立場からの記事は多数あります。再審通信などにも掲載されています。記述の代表的なものは、
・石川元也 『創意』 日本評論社 2019年 と思われます。
木谷先生の上記ご本 ↓
違法捜査と冤罪 捜査官!その行為は違法です。 [ 木谷 明 ]
石川元也弁護士の本 ↓
創意 事実と道理に即して 刑事弁護六十年余 (ERCJ選書) [ 石川元也 ]
おやっとさぁ。また来っでな。(薩摩弁 お疲れ様、またUPするからね!)
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