小池決定(大崎事件第3次再審請求)の問題点の1つ 事実の取調べをしていない点について 

大崎事件再審請求審の動き

「法令の解釈適用の誤り」といいながら、実質的に事実認定が原決定、原々決定と食い違った場合に、事実の取調べを要さずに破棄できるのか、という問題について

おやっとさぁ。再審法改正情報まとめサイトの管理人です。更新が不定期になってすみません。今日は、タイトルにある問題について考えていきます。小池決定(大崎事件第3次再審請求。最高裁判所令和元年6月25日第1小法廷決定・裁判集刑事326号1頁)は様々な問題をかかえていますが、この問題について的確に指摘されたのは、松宮孝明教授の論文「ノヴァ型再審における総合評価 大崎事件第三次再審請求特別抗告審決定を契機として」現代人文社『刑事法学と刑事弁護の協働と展望』(2020)の88頁以下だと思います。

小池決定(当HPは、小池決定には大崎事件と飯塚事件があると考えていますが、今回は大崎事件の小池決定だけを取り扱います)による職権破棄の実質的理由は、事実誤認です。そうすると、小池決定は、理由不備の違法と重大な判例違反を犯していることになります。すなわち、

最判平成24年2月13日刑集66巻4号482頁(チョコレート缶事件)(刑訴法 382 条の)「事実誤認」の意義について、つぎのように判示し(、破棄自判して、控訴を棄却し、無罪判決を確定させ)ました。

「刑訴法は控訴審の性格を原則として事後審としており、控訴審は、第 1 審と同じ立場で事件そのものを審理するのではなく、当事者の訴訟活動を基礎として形成された第 1 審判決を対象とし、これに事後的な審査を加えるべきものである。第 1 審において、直接主義・口頭主義の原則が採られ、争点に関する証人を直接調べ、その際の証言態度等も踏まえて供述の信用性が判断され、それらを総合して事実認定が行われることが予定されていることに鑑みると、控訴審における事実誤認の審査は、第 1 審判決が行った証拠の信用性評価や証拠の総合判断が論理則、経験則等に照らして不合理といえるかという観点から行うべきものであって、刑訴法 382 条の事実誤認とは、第 1 審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることをいうものと解するのが相当である。したがって、控訴審が第 1 審判決に事実誤認があるというためには、第1審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることを具体的に示すことが必要であるというべきである。このことは、裁判員制度の導入を契機として、第1審において直接主義・口頭主義が徹底され

た状況においては、より強く妥当する。

・・・(略)・・・

原判決は、間接事実が被告人の違法薬物の認識を推認するに足りず、被告人の弁解が排斥できないとして被告人を無罪とした第 1 審判決について、論理則、経験則等に照らして不合理な点があることを十分に示したものとは評価することができない。そうすると、第 1

審判決に事実誤認があるとした原判断には刑訴法 382 条の解釈適用を誤った違法があり、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであって、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。」

小池決定は、形の上では刑訴法 411 条 1 号の準用、すなわち法の解釈適用の誤りの違法により原決定及び原々決定を破棄していますが、実質的には特別抗告審が即時抗告審の決定に事実誤認があるとしたものです。したがって、控訴審が第 1 審判決に事実誤認があるとした場合と実質的には同じであるから、小池決定は上記判例の射程外ということはできない。そもそも最高裁は事実審ではなく、最高裁が高裁の判断を事実認定を理由に破棄できるのは、「重大な事実誤認」があり「破棄しなければ著しく正義に反すると認められるとき」(刑訴法 411 条 3 号)に限られるからである。

そこで、最高裁は、最高裁による事実誤認の審査方法について、「当審における事実誤認の主張に関する審査は、当審が法律審であることを原則としていることにかんがみ、原判決の認定が論理則、経験則等に照らして不合理といえるかどうかの観点から行うべきである」としたのです(最判平成 21 年 4 月 14 日刑集 63 巻 4 号 331 頁〔小田急事件〕)。

上記判示が、既にみた平成 24 年覚せい剤チョコレート缶事件の「控訴審における事実誤認の審査は、第 1 審判決が行った証拠の信用性評価や証拠の総合判断が論理則、経験則等に照らして不合理といえるかという観点から行うべきものであって」を導いていると考えられます。

そうすると、特別抗告審である最高裁が、事実審である即時抗告審の判断に(重大な)事実誤認があるというのなら、控訴審と同じように原決定の事実認定が、論理則、経験則等に照らして不合理であることを具体的に示す必要があるのです。

小池決定が、請求審と即時抗告審の再審を開始すべきという判断を覆しただけでなく、自判して再審請求を棄却したのであるから、なおさらです。

この自判の点についても問題があります。控訴審が有罪の自判をする場合に事実の取調べを要するかという問題です。

ここでは、最高裁令和2年1月23日第一小法廷判決・刑集74巻1号1頁との関係が問題となります。この判決は、無罪の原々判決を、控訴審で事実の取調べをすることなく破棄して逆転有罪とした原判決を破棄したものでした。この場合には事実の取調べをする必要があるとしたのです。この最高裁判決は、一般に、リベラルで被告人の人権に配慮した判決として高く評価されていますが、同判決の評釈の中で、小池決定との関係を鋭く指摘するものは、ごくわずかです(先日の、小池決定に関する評釈一覧で挙げている松宮孝明教授の論稿〔88頁の脚注23〕と、鴨志田祐美弁護士の論稿だけです)。近視眼的な判例評釈が多いことに愕然とします。

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