大崎事件の方の小池決定(最高裁判所令和元年6月25日第1小法廷決定・裁判集刑事326号1頁)について、おおかたの評釈等が出そろったように思います。令和3年8月31日現在のものをまとめていきます(※は寸評で、管理人が付した感想・意見です)。
【弁護団からのもの】
○佐藤博史「大崎事件再審取り消し 世紀の大誤判・最高裁決定」現代の理論(2019)20頁 ※一般向け
○鴨志田祐美「大崎事件最高裁決定:小池決定に正義はあるか」判例時報2422号(2019)142頁
○鴨志田祐美『大崎事件と私 ―アヤ子と祐美の40年―』LABO(2021)
※迫真のヒューマニズム・ノンフィクション 発売早々に重版が決まり、話題が大きくなりつつあります。読み物としてはもちろん、現行の刑事再審の制度がいかに問題の大きいものであり、改正を要するのかがよくわかります。弁護士にここまで犠牲を強いるような制度はおかしいでしょう。是非お手に取って読んでみてください。
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○鴨志田祐美「大崎事件最高裁決定の存在意義 ―小池決定を再審法改正への原動力に」季論21の47号(2020)94頁
【弁護団関与原稿も含む特集記事】
○季刊刑事弁護102号(2020)
特集 大崎事件最高裁決定の不正義
笹倉加奈「特集の趣旨」
村岡啓一「明白性判断に関する再審法理と大崎事件最高裁決定」
豊崎七絵「大崎事件最高裁決定による刑訴法411条1号準用の論理とその不当」
徳永光「科学的鑑定の評価」
○日本弁護士連合会人権擁護委員会『21世紀の再審 えん罪被害者の速やかな救済のために』(2021)152頁
【小池決定を好意的に捉え、あるいは擁護するもの】
○中谷雄二郎 判批 刑事法ジャーナル64号(2020)101頁
○福崎伸一郎「客観的状況の取扱いについて 大崎事件再審を素材として」判例時報2429号(2020)131頁 ※正確には、この論稿は、小池決定が原決定の論理則経験則等違反を具体的に指摘できていないと指摘しており、全面的に小池決定を擁護するものではありません。ただ、I氏、T氏が、好意から四郎さんを搬送したという事実と、受難を逃れるために遺棄行為を行うこととは両立すると素人目にも思われるのに、親切心に基づく搬送を過大に評価しているのでは、と思いました。親切心からの搬送は証拠からは明らかですが、事態の推移や人間心理というものへの考察が欠けているようにも思われるのです。
○関口和徳「再審における証拠の明白性の判断方法・再論 全面的再評価説にたつことの意義」『刑事法学と刑事弁護の共働と展望』現代人文社(2020)54頁。
※ 小池決定の事実認定を礼賛し、「旧証拠の証明力が強固」であると断言している評釈。全面的再評価説に立たねばならないから、白鳥決定もそれ以降の小池決定を含む最高裁の決定も、全面的再評価説に立っているとの理由付けを繰り返すことと、小池決定の事実認定について批判もある旨注釈で引用する(自分では本文、脚注通じて批判はしていない)ことが筆者の特徴。
○関口和徳 新判例解説ウォッチ 刑事訴訟法No.130 (2020)。
○前田雅英「再審 刑訴法435条6号の解釈適用」WLJ判例コラム第174号(2019) ※小池決定の事実認定を追認。
【小池決定を批判的に捉えるもの】
○門野博『刑事裁判は生きている 刑事事実認定の現在地』日本評論社(2021)255頁。
○門野博「大崎事件最高裁決定について ―このような認定が許されてよいのか」法学セミナー776号(2019)1頁 ※小池決定の事実認定にフォーカス
○𠮷田謙一『法医学者の使命 人の死を生かすために』岩波新書(2021)180頁。
※法医学的観点から、小池決定の認定を批判するもの
○松宮孝明「ノヴァ型再審における総合評価 大崎事件第三次再審請求特別抗告審を契機として」『刑事法学と刑事弁護の共働と展望』現代人文社(2020)76頁
○匿名現職裁判官 Q24 日本裁判官ネットワーク『裁判官だから書けるイマドキの裁判』岩波書店(2020)93頁。
○中島宏「再審開始は「著しく正義に反する」のか?」法律時報91巻11号4頁。
○伊藤睦 判批 法学セミナー777号126頁(2019)。
○山崎友也「統治構造において司法権が果たすべき役割 第2部」判時2426号123頁。
【位置付けの評価が、管理人には難しいもの】
○田淵浩二 判批・令和元年重要判例解説(2020)176頁
※ 田淵教授の立ち位置は、再審弁護団寄りで、再審制度にも大崎事件にも造詣の深い方という筆者の認識でしたが、この判批は拙劣です。小池決定を擁護して、共犯者3名の供述と目撃者供述が強固であるとの立場に立ち、IとTの供述の信用性が重要であることを看過していまするように思われます。
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