身に覚えのない罪に問われた人は、何とも言い難い理不尽な状況に身を置く。自分が「やっていない」ことをだれよりもよく知っているのに、有罪か無罪かは神ならぬ人間、裁判官の手に委ねなければならないのだ。
大崎事件の被告人であった原口アヤ子さんは、そんな理不尽な状況と40年以上も闘ってきた。こんな苦しい闘いには伴走者が必要だ。この本は、そのアヤ子さんの伴走者、弁護人として全身全霊で闘ってきた鴨志田祐美弁護士が綴った事件の記録だ。
およそ700頁という本の分厚さに一瞬たじろいだものの、読み始めると一気に読み終えてしまった。ハラハラ、ドキドキ、そして、泣いて、笑って、怒って。読み物としてとにかく面白いのだ。「面白い」は不謹慎だろうと言われそうだが、著者自身がはしがきで「『ドラマ』とか『映画』とか『お芝居』と同じように楽しんでいただきたい」と書いておられるのだからお許しいただけるだろう。
いったん有罪判決が確定した事件について、再度、裁判を開始する「再審」のハードルは極めて高い。頑なに再審の開始を阻もうとする検察や、再審に対する姿勢が裁判官によってまちまちの裁判所との闘いは、難しいゲームの攻略本のようにも読める。同時に、原口アヤ子と鴨志田祐美の「女の一代記」としても、この二人とともに闘う多くの強く心優しい人たちの人間ドラマとしても読める。
本書を読むのに、刑事司法の予備知識は不要だ。しかし読み終わったときには、日本の再審制度には証拠開示などのルールがなく、これが再審を望む無辜(むこ)の人たちを苦しめていることなど、刑事司法制度の在り方についても深く考えることができるはずだ。
Amazon 鴨志田祐美著『私と大崎事件』出版社情報欄より引用(推薦文を他に引用することについては、筆者の村木厚子さんのご了解を得ています)
アイキャッチ画像提供:大崎事件弁護団 *これは試作段階(プロトタイプ)の装丁です。実際に市場に出ている「大崎事件の私」の装丁と違いますのでご注意をお願いします。5月5日追記:アマゾン様より、実際の本と違う装丁を掲示するの、ホント困るんだよね?と指導を受けましたので、正規の装丁に変更しました。大変失礼しました。
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